◆第三章 法人取引の法務
3-1 契約一般と売買契約の成立
①契約
(1)契約とは
相対立する2個以上の意思表示が合致することによって成立する法律行為
たとえばAがB所有の物品等を買い、その代金をBに支払うという合意
もしもAが代金を支払ったにもかかわらずBが当該物品をAに渡さなかった場合
裁判所に訴えて、契約内容を実現させたり損害賠償を請求することができる。
この権利がある点で、単なる約束とは異なる
(2)契約自由の原則
契約自由の原則とは、契約を結ぶか否か、誰と結ぶか、どのような内容の契約とするか
どのような方式にするかは、契約当事者の自由であるという原則
(3)種類
民法が認める13種類の典型的な契約は以下のとおり
①所有権移転型⇒贈与、売買、交換
②貸借型⇒消費貸借、使用貸借、賃貸借
③労務型⇒雇用、請負、委任、寄託
④その他⇒組合、終審定期金、和解
②売買契約の成立
(1)成立
民法では、売買契約は売主の「売りたい」という申し込みの意思表示と
買主の「買いたい」という承諾の意思表示が合致したときに成立する⇒諾成契約
(2)意思表示が問題となる場合 その1(意思の不存在)
意思表示をするものが、表示した意思に対する真意を書いている場合で
【心裡留保】【虚偽表示】【錯誤】の3種類がある
①心裡留保
心裡留保とは、表意者が真意でないことを自分で知りながら意思表示をすること
原則として有効だが、相手方が真意でないことを知っているかどうかで変わる
諾成契約時に通常の注意をもっていれば知ることができた場合はその意思表示は無効となる
たとえば、Aさんは自己所有の建物を、Bさんに移転したようにみせかけ
そのことを知らないCさんが、Bさんからその建物を買ったとき
AさんはBさんとの契約は無効なので明け渡せとは言えない
冗談で言ったこと等がよく心裡留保に該当する例となります
お互いが冗談とわかっているか、が大切なポイントとなります
②虚偽表示
虚偽表示とは、表意者が相手方と通じて行った虚偽の意思表示のこと
原則として無効だが、虚偽表示であることを知らない善意の第三者に対しては対抗できない
たとえば、AさんとBさんとの合意で、A所有の土地の所有権を外見だけBさんに移転し
それを知らないCさんが、Bさんからその土地を買ったとき
Aさんは、AB間の契約は無効なのでAさんに戻すように主張はできない
虚偽=ウソであるということ
善意無過失のCさんには対抗できないので、土地はCさんのもの!
③錯誤
錯誤とは、表意者が真意でない意思表示と気づかないで意思表示をすること
例えば50万円を借りるつもりが、誤って500万円かりる旨の意思表示をした場合
意思表示の重要な部分について錯誤がある場合には無効となる
「意思表示の重要な部分」とは、その錯誤がなければ意思表示をしなかったであろうと思われるような
重要な部分に錯誤がある場合のみでさる
ただし錯誤の原因が表意者の重大な過失にある場合には
表意者から意思表示が無効であることを主張できない
錯誤とは、勘違い、思い違いのこと
勘違いしないように気を付けてたか、が大切
(3)意思表示が問題となる場合 その2(瑕疵ある意思表示)
意思と表示との間で不一致はなく、表意者が自由な判断を妨害されて行った意思表示のこと
瑕疵=欠点のことである
①詐欺による意思表示
他人にだまされて行った意思表示は有効であるが
表意者が意思表示を取消した場合は始めから無効になる
取消前の善意の第三者には主張できない
②脅迫による意思表示
他人の害意を怖いと感じてなされた意思表示で有効であるが
表意者が意思表示を取消した場合は始めから無効になる
取消前の善意の第三者に対しても主張することができるので
その点が詐欺と異なっている
(4)手付・内金
手付とは、売買契約が成立したときに買主が売主に一定額を交付する金銭のことである
民法では、解除権を留保する趣旨の手付(解約手付)が規定されている
買主は手付を放棄すれば、債務不履行がなくても契約を解除できる
(5)期限と条件
①期限
期限とは、契約の効力または履行を将来発生することが確実な事実に関連づける特約のこと
期限には確定期限と不確定期限がある
1.確定期限
将来、到来する時期が確定しているもの
必ず到来し、日にちなど具体的に呈示できるもの
たとえば、子供が成人した日に建物を贈与するという場合が該当する
2.不確定期限
将来、到来するのは確実だが、到来時期が不確定なもの
たとれば、ある人が死亡したときにその者の所有していた土地を売却する場合など
いつか必ず死は訪れるが、明確な日にちは現時点で不明の場合が該当
3.期限の利益
期限が与えられていると、期限の到来までは債務の履行を請求されず
その間、支払う必要はないので利益を受けることになる、これを期限の利益があるという
期限の利益は債務者の為に定めたものと推定される
たとえば、代金支払いの義務が3か月後という場合
3か月間は売買代金を支払う義務がなく
その間、他の目的に運用できるという利益がある
③条件
将来、ある事実が発生することが不確な場合で、期限とは異なる
具体的には、停止条件と解除条件がある
(1)停止条件
現時点では諾成契約のみ
その条件を成就してはじめて効力を生じさせる場合のその条件のこと
契約締結後、ある条件が整うまでの法的効力の発生を停止させておくもの
例)宝くじが当たったらプレゼントを買う/大学に合格したら車を買ってあげる 等
(2)解除条件
その条件の発生がある法律行為の効力を消滅させる、その条件のこと
当然、条件が発生しない限り契約は有効で、定める義務を履行しなければならない
例)大学を留年したら仕送りはストップする、バイトを始めたら携帯代の負担をやめる 等